飲食業界では、繁忙時間帯だけの短時間勤務や、イベント日だけのスポットバイトなど、柔軟な働き方が日常的におこなわれています。人手不足が深刻化する中で、こうした「単発バイト」は、店舗運営の大きな支えとなっています。 一方で、その雇用形態について「日雇いだから大丈夫」「1日だけのバイトに契約書なんて必要ない」といった認識のまま、曖昧な労務管理をしてしまうケースも少なくありません。 しかし、そうした“簡易なつもり”の雇用対応が、後々トラブルや行政指導に発展することもあるのです。 本記事では、飲食業の現場で起こりやすい短期雇用のリスクや、トラブルを未然に防ぐための実務的なポイントについて、社会保険労務士監修のもとでわかりやすく解説します。
原 陽介 氏
東京山の手社会保険労務士法人 代表
新卒で大手外食企業に入社し20年間勤務。飲食店の経営と店長業務などに従事。 2013年に開業以来、一貫して飲食店のお客様を中心に労務管理に留まらず、自らの実体験から得た店舗立上げ・運営ノウハウを提供し多くの飲食店オーナー様から高い評価を受けている。 業務拡大に伴い2016年1月に法人化。
💡 この記事でわかること
- 1. 飲食業に多い「日雇いバイト」の実態と誤解
- 1.1 「1日だけの仕事だから問題ない」は本当?
- 1.2 「日雇い労働者」とはどういう人?
- 2. 飲食業で起きがちな短期雇用トラブル
- 2.1 保険未加入による法令違反
- 2.2 賃金の未払い・割増賃金の未計算
- 2.3 労災事故への対応不足
- 3. なぜトラブルが起きやすいのか?飲食店の事情と課題
- 3.1 現場の忙しさで労務管理が後回しに
- 3.2 労働法・税制度に対する理解の不足
- 4. 短期バイトでも守るべき5つの基本ルール
- 4.1 契約書や労働条件通知書を交わす
- 4.2 勤怠記録を必ず残す
- 4.3 所得税の源泉徴収を忘れずに
- 4.4 労災保険の適用と申請体制を確認
- 4.5 スポットバイトアプリ活用時の契約確認
- 5. 社労士のアドバイス|短期雇用は「特別扱いできない」
- まとめ
- 参考|無料でシンプルな給与前払いサービス「パルケタイム」
1. 飲食業に多い「日雇いバイト」の実態と誤解
1.1 「1日だけの仕事だから問題ない」は本当?
飲食店では、急な欠員や繁忙日の対応のために、1日限りのアルバイトを雇う場面がよくあります。たとえば、「土日だけ来てもらっている学生アルバイト」や「イベント時にいつもお願いしている元スタッフ」など、店側にとっては“日雇いのつもり”でも、実際は毎週・毎月のように呼んでいるというケースは少なくありません。
こうした働き方は一見すると「日雇い労働者」として問題ないように思えるかもしれませんが、労働法上は“雇用契約が断続的に更新されている”とみなされる場合があります。つまり、実質的には「常用雇用者」に近い扱いになることもあり、社会保険や雇用保険、税務処理など、店側に法的責任が生じてくるのです。
1.2 「日雇い労働者」とはどういう人?
法的な定義において「日雇い労働者」とは、雇用契約がその日限りで完結する人のことを指します。継続的な勤務の予定がなく、労働するたびに新たな契約を結ぶのが前提です。
しかし、一定の頻度や期間で働いている場合、たとえ契約書を交わしていなくても“実態”から「継続雇用」と判断されることがあります。この誤解が、後に労働トラブルや行政指導の原因となるのです。
2. 飲食業で起きがちな短期雇用トラブル
2.1 保険未加入による法令違反
短期雇用だからといって、保険の加入義務が免除されるわけではありません。たとえば、31日以上の雇用見込みがあり、かつ週の所定労働時間が20時間以上の場合、アルバイトでも雇用保険への加入が必須です。 また、店舗の規模や本人の勤務条件によっては、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象にもなります。 加入条件を満たしているにもかかわらず手続きを怠っていた場合、遡って保険料の支払いを求められたり、行政指導を受けたりするリスクがあります。
2.2 賃金の未払い・割増賃金の未計算
短期バイトに対しても労働基準法は適用されます。ところが、契約内容を明確にせずに働かせた結果、
- 時間外労働に対して残業代が支払われていない
- 22時以降の勤務に深夜割増がついていない
- 休憩時間が正確に取られていない
といったトラブルが発生しがちです。こうした問題は、バイト側からの請求や労基署への相談を通じて事後的に発覚することが多く、金銭的にも信頼的にも大きな損失になります。
2.3 労災事故への対応不足
飲食店では、包丁・火・油などのリスクが常にあります。たとえ1日だけの勤務でも、業務中のケガは労災保険の対象です。 しかし、雇用契約が不明確だったり保険に加入していなかったりすると、労災申請ができず店舗が損害賠償を求められるケースもあります。現場の安全管理とともに、労災対応の整備も重要です。
3. なぜトラブルが起きやすいのか?飲食店の事情と課題
3.1 現場の忙しさで労務管理が後回しに
飲食店の多くは、日々の営業で手いっぱいになっており、スタッフの採用や契約管理まで丁寧に対応する余裕がないのが実情です。急な人手不足の際には、知り合いや過去のスタッフに“とりあえず”声をかけて働いてもらうことも少なくありません。 こうした対応が繰り返されると、雇用関係の境界が曖昧になり、結果として契約書や勤怠記録が残らず、法的に不利な立場に立たされるリスクが生まれます。
3.2 労働法・税制度に対する理解の不足
労働法や税務に関する制度は複雑で、店長や現場リーダーが正確に把握していないことも多くあります。特に「1日だけ」「スポット対応」といった働き方の場合、どこまで対応が必要なのかが判断しづらく、つい“他の店もやっているから大丈夫だろう”と見過ごしてしまいがちです。 しかし、「知らなかった」では済まされず、後になって大きなリスクとして跳ね返ってくることがあります。
4. 短期バイトでも守るべき5つの基本ルール
4.1 契約書や労働条件通知書を交わす
どんなに短期でも、雇用契約は「労働条件の明示」が義務づけられています。少なくとも、勤務時間・時給・交通費の有無・業務内容などを記載した「労働条件通知書」は交付しましょう。 電子契約サービスを利用すれば、スマホやPCから簡単に契約を結ぶこともでき、この書面の有無が後々のトラブル回避につながることもあります。
4.2 勤怠記録を必ず残す
「今日は何時から何時まで働いたか」を記録することは、賃金計算の根拠になります。タイムカード、シフト表、アプリなど形式は問いませんが、証拠として残るものを必ず用意しましょう。 記録がなければ、言い分が食い違ったときに証明が難しくなります。
4.3 所得税の源泉徴収を忘れずに
アルバイトに給与を支払う際は、原則として所得税の源泉徴収が必要です。「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している場合は甲欄を、提出がない場合は乙欄を適用します。 短期バイトでも支払調書の作成や税務処理を行っておくと、後からの確認もスムーズです。
4.4 労災保険の適用と申請体制を確認
事業主が労災保険に加入していれば、アルバイト中のケガでも補償を受けることができます。 未加入のまま営業していたり、手続きが曖昧な場合は、自己負担での治療や損害賠償の請求リスクが発生します。 「うちの店の労災手続き、誰がやってる?」と一度チェックしてみてください。
4.5 スポットバイトアプリ活用時の契約確認
最近では、マッチングアプリを通じて短期バイトを募集する店舗も増えています。こうしたサービスでは「雇用契約」ではなく「業務委託契約」であることが多いため、注意が必要です。 業務内容や指示の仕方によっては、形式上は委託でも実態は“労働者”とみなされることがあり、偽装請負として問題視される場合もあります。契約書や利用規約の確認は必須です。
5. 社労士のアドバイス|短期雇用は「特別扱いできない」
飲食業界では、柔軟な働き方が求められます。そのなかで短期・スポット雇用は、現場を支える大切な仕組みです。ただし、「短期だから例外」と考えるのではなく、「短期でも原則通り対応する」ことが求められます。 契約、勤怠、税務、保険、どれも面倒に感じられるかもしれませんが、最初のひと手間が後の大きなリスクを防いでくれます。不安がある場合は、労務管理については社会保険労務士、税務については税理士など、それぞれの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
短期だから、1日だけだからという理由で対応を省略すると、労務トラブルのリスクが高まります。一方で、基本的なルールさえ押さえておけば、安心して柔軟な雇用を続けていくことができます。 飲食業の現場で働く人たちが、気持ちよく、安心して働ける環境を整えること。それはお店の評判やスタッフ定着にも直結する、重要な取り組みなのです。
参考|無料でシンプルな給与前払いサービス「パルケタイム」
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