人手不足や繁忙期への対応として、単発・短期の人材を採用する機会が増えてきました。その中でも「日雇い労働者」は、必要なタイミングだけ雇える柔軟な雇用形態として、多くの企業に活用されています。 しかし、たとえ1日だけの勤務であっても、給与の支払いや税務処理には法令に基づいた正しい対応が求められます。特に、所得税の源泉徴収や帳簿管理のルールを誤ると、税務調査で指摘を受けるリスクもあるため注意が必要です。
- これから日雇いスタッフを受け入れるのに知っておくべきルールを知りたい
- 1日だけの勤務でも源泉税はかかるの?
- 給与計算の方法がわからない
本記事では、初めて日雇い労働者を雇う担当者の方にもわかりやすいよう、所得税の取り扱いや給与計算の基礎知識を実務目線で丁寧に解説します。
💡 この記事でわかること
- 1. 「日雇い労働者」とは
- 1.1 法的な定義
- 1.2 「日雇い」と「短期アルバイト」の違い
- 2. 所得税の取り扱い
- 2.1 源泉徴収は必要か
- 2.2 所得税額の計算方法
- 2.3 源泉徴収票の発行義務
- 3. 給与計算上の注意点
- 3.1 社会保険・雇用保険の取り扱い
- 3.2 支払明細・帳簿記録の保管義務
- 3.3 現金払い・日払いの場合の注意
- 4. 実務でよくある質問(Q&A)
- 5. 参考リンク
- 参考|無料でシンプルな給与前払いサービス「パルケタイム」
- まとめ
1. 「日雇い労働者」とは
1.1 法的な定義
「日雇い労働者」とは雇用契約が1日単位で結ばれ、継続して雇用されることを予定していない労働者のことです。たとえば次のようなケースが該当します。
- イベント会場の設営などで1日だけ働いてもらう
- 工事現場のサポートを1日単位で頼む
- 配送業務の繁忙日にだけ来てもらう
また、形式上は日々契約であっても、実際には同じ人物を継続して雇っているような場合、実質的には通常の短期雇用とみなされ、税務や労務の扱いが変わる場合があります。
1.2 「日雇い」と「短期アルバイト」の違い
「日雇い」と似て非なるものが「短期アルバイト」です。
区分 | 日雇い労働者 | 短期アルバイト |
雇用期間 | 原則1日 | 数日~2か月程度の期間を定めて雇用 |
雇用保険 | 原則適用外(条件による) | 条件次第で適用対象 |
所得税の計算 | 乙欄での源泉徴収 | 原則、甲欄(申告書提出あり) |
これらの違いは雇用期間や保険の扱い、税務上の処理にあります。給与計算や年末調整の有無など、実務の対応が大きく変わりますの注意ください。
2. 所得税の取り扱い
2.1 源泉徴収は必要か
日雇い労働者であっても、企業が給与を支払う際には原則として所得税の源泉徴収が必要です。
ただし、適用する源泉徴収の方法(税額表)は「扶養控除等申告書」の提出有無や雇用形態によって変わります。
- 「扶養控除等申告書」が未提出の場合は、乙欄の源泉徴収税額表を使用
- これは最も税額が高くなる区分であり、日給3,520円以上で源泉徴収が発生(令和6年度)
- 一般的に、初めて働く人や、単発の業務で申告書をもらえない場合該当する
- 「扶養控除等申告書」が提出されており、その人がその会社で主に働いている(主たる給与の受給者)場合は、甲欄の税額表が適用
- 甲欄では扶養家族の人数に応じて控除が受けられるため、乙欄に比べて源泉徴収される税額は少なくなる
- 継続的なアルバイトやパートなどがこれに該当する
- 雇用期間が2か月以内、もしくは日々雇用契約で、かつ「扶養控除等申告書」が提出されている場合には、丙欄の税額表を使用できる
- 丙欄の特徴は、日給9,300円以上で源泉徴収が発生(令和6年度)
- ただし、実際に雇用が繰り返されて「継続的な勤務」とみなされた場合には丙欄の適用はできず、乙欄または甲欄へ切り替える必要がある
このように、同じ「給与」であっても、申告書の有無と雇用の形態によって、使う源泉徴収区分が異なります。使い分けを誤ると源泉徴収漏れや税務上の指摘につながる恐れがありますので、雇用契約時にきちんと確認し、契約期間や雇用見込みに応じて正しく区分を選びましょう。
2.2 所得税額の計算方法
所得税の計算には国税庁が公開している「源泉徴収税額表(日額表)」の乙欄を使用します。 たとえば、日給10,000円で、扶養控除等申告書が提出されていない場合、税額表により控除税額は490円となります。
源泉徴収税額表は毎年改定されますので、国税庁の最新資料を確認して運用することが大切です。
参考:国税庁「令和6年分 源泉徴収税額表(日額表)」
2.3 源泉徴収票の発行義務
日雇い労働者であっても、年間に5日以上かつ合計5万円以上の支払いがある場合には、源泉徴収票の発行が必要です。たとえ一度に高額を支払っていなくても、複数回に分けて合計が基準額を超える場合は対象になります。源泉徴収票の作成と提出にはマイナンバーの記載も必要になるため、事前の取得体制も重要です。
3. 給与計算上の注意点
3.1 社会保険・雇用保険の取り扱い
健康保険や厚生年金は、日雇いのように1日限りの雇用では原則として適用外です。ただし、雇用保険については以下の2つの条件を満たすと適用対象となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
- 31日以上の雇用が見込まれること
これらを満たす場合は、たとえ短期であっても雇用保険の加入手続きが必要となるため、契約時に今後の勤務予定を正確に把握しておくことが重要です。
3.2 支払明細・帳簿記録の保管義務
たとえ1日だけの勤務でも、以下のような記録を最低5年間は保管する必要があります。
- 勤務日・勤務時間
- 支給額・控除額
- 支払方法(現金・振込など)
税務調査では、「本当に働いたのか」「正当な金額か」が問われるため、出勤簿や業務報告書なども残しておくと安心です。
3.3 現金払い・日払いの場合の注意
現金払いをおこなう場合は、以下の点に特に注意が必要です。
- 給与明細を発行する(紙でもPDFでもOK)
- 領収書や受領サインを取得する
- 支払台帳に記録を残す
現金払いはトラブルの元になりやすく証拠が残りづらいため、できる限り振込に切り替えるのが望ましい運用です。
4. 実務でよくある質問(Q&A)
Q:扶養控除等申告書がもらえないのですが、どうしたらよいですか? A:提出がない場合は、必ず乙欄で源泉徴収を行ってください。無理に提出を求める必要はありません。
Q:1日だけの勤務でも税金を引かないといけませんか? A:はい。給与である限り、勤務日数に関係なく源泉徴収が必要です。
Q:マイナンバーの収集は必要ですか? A:はい。源泉徴収票や法定調書に記載するため、必ず取得して保管管理する必要があります。一方で、従業員にはマイナンバーを提出する法的義務がないため断る人もいるかもしれません。その場合は理解を得られるよう丁寧に説明しつつ、ゆえに記載漏れではないという証明として経過の記録を残しておきましょう。
5. 参考リンク
- 国税庁「源泉徴収税額表(日額表)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2023/02.htm
- 厚生労働省「雇用保険の適用」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/index_00003.html
- 総務省「マイナンバー制度」 https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/01.html
参考|無料でシンプルな給与前払いサービス「パルケタイム」
パルケタイムは給与前払いの福利厚生サービスです。
- 働いた分の給与を好きなタイミングで受け取ることができます
- 企業負担ゼロで最短即日導入できます
- 「日払い」「前払い」をキーワードに訴求し採用力が向上します
まとめ
日雇い労働者の給与計算や所得税の処理は、短期雇用だからといって油断できない重要な業務です。
- 日雇いでも税務上はしっかりした処理が求められる
- 所得税は日額表で源泉徴収、帳簿管理も忘れずに
- 必要に応じて税理士や社会保険労務士へ相談を
また、マイナンバーや社会保険の判断、税務署の調査対応など、日雇いであっても通常雇用と同様の対応が求められる場面は多くあります。これから日雇い労働者を雇う企業では、給与支払いの流れやマニュアルを整備するなど準備をしっかりとおこないましょう。
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