日払い制度は、現場の採用力を高める手段として注目されています。しかし「日払いは違法では?」「税務や労基法の処理が難しそう」といった不安を抱く企業も少なくありません。SNSや口コミでは誤った情報が広がりやすく、担当者が判断に迷うケースが増えています。
結論から言えば、日払いは条件を満たせば合法です。ただし、労働基準法・税務・社会保険・求人広告の基準を正しく理解しなければ、思わぬトラブルにつながる可能性があります。
この記事では、厚生労働省・国税庁などの一次情報に基づき、日払いが合法となる根拠、違法となるケース、税務処理、求人表記のルール、労基署が問題視した事例、現場で安全に運用する方法を包括的にまとめました。制度を正しく理解し、現場の負担を減らす日払い運用のヒントとしてご活用ください。
💡 この記事でわかること
- 1. はじめに:なぜ今「日払いの合法性」が注目されているのか
- 2. 日払いは違法なのか?結論:「条件付きで合法」
- 2.1 日払いが誤解される背景
- 2.2 合法となる日払い方式のパターン
- 3. 日払いが"違法"または"問題視"されるケース
- 3.1 明確にNGとなるケース
- 3.2 労基署が問題視した典型例
- 3.3 グレーゾーンになりやすい運用
- 4. 日払い制度の基礎:3つの方式と合法性の違い
- 4.1 現金手渡し日払い
- 4.2 給与前払いサービス(外部の立替型サービス)
- 4.3 給与デジタル払い(資金移動業者口座へ振込)
- 日払いとの組み合わせが非常に強い理由
- 5. 日払い運用の「税務」企業が特に誤りやすいポイント
- 5.1 所得税の基礎:日雇いか?短期雇用か?
- 5.2 源泉徴収の誤解:日額9,300円以下の"非課税"は年によって変動する
- 5.3 交通費・食事代の扱い
- 5.4 社会保険(厚生年金・健康保険)で特に誤りやすい点
- 5.5 労災保険:日雇い労働者でも必ず適用
- 6. 求人広告における"違法表記"になりやすいポイント
- 6.1「日払いOK」と記載できるのはどんな場合か
- 6.2 表記のズレによるトラブル例
- 6.3 求人広告に入れるべき3つの要素
- 7. 企業事例:日払い運用で起きたトラブルと解決策
- 7.1 記録不足 → 労基署から是正勧告を受けた例
- 7.2 現金の紛失 → 企業が全額補填した例
- 7.3 税務処理の誤り → 年末調整で従業員から苦情
- 7.4 給与前払いサービス導入で改善した例
- 8. 現場の負担を減らす「正しい日払い運用フロー」
- 8.1 導入前に整えるべきポイント
- 8.2 正しい日払い運用の流れ
- 8.3 運用が楽になる「日払いチェックリスト」
- 9. hibarai(ヒバライ)による最新の日払い運用モデル
- 9.1 手渡し日払いの課題を構造的に解消
- 9.2 勤怠管理との連動で計算ミスを防ぐ
- 10. まとめ:日払い制度は"正しく運用すれば合法"で企業成長の武器になる
1. はじめに:なぜ今「日払いの合法性」が注目されているのか
中小企業で「日払い制度」を導入する企業が増えています。背景には、人手不足の深刻化と、求職者が柔軟な給与受け取り方法を求めるようになった変化があります。特に警備、介護、物流、飲食といった現場業務中心の業界では、給与の柔軟性が応募数や定着率に直結する傾向があります。
一方で企業からは、次のような疑問の声が絶えません。
- 日払いは法律に違反しないのか?
- 税務処理や労基署対応が複雑なのでは?
- 求人票に「日払いOK」と書くと何が必要?
- 従業員から要望があるがどう対応すべき?
SNSや求人広告には誤った情報も多く、制度を正しく理解するのは簡単ではありません。制度理解が曖昧なまま運用を進めると、未払い残業・求人表示違反・税務トラブル・労基署の是正勧告につながる恐れがあります。
この章では、日払い制度が注目される背景を整理します。
2. 日払いは違法なのか?結論:「条件付きで合法」
日払いは「違法ではない」ものの、条件を満たさなければ違法になりうる制度です。
企業が理解すべき中心ルールは労働基準法第24条(賃金支払の原則)です。
賃金は、通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。
ー労働基準法 第24条
この「毎月1回以上の定期払い」義務が「日払い=違法」という誤解を生んでいます。
しかし厚生労働省は、次のように明示しています。
「定期賃金支払いを損なわない範囲であれば、前払いは可能」
ー賃金支払の基本|厚労省
つまり、
- 月1回以上の定期払いを必ずおこなう
- そのうえで働いた分を前倒しで支給する
これは合法となります。
2.1 日払いが誤解される背景
誤解が生まれやすい理由は3つあります。
- 労働基準法の言い回しが誤解を生む
- 「毎月1回以上」という表現が「それ以外は認められない」と解釈されやすい。
- 日雇い労働との混同
- 昔の「日払い=日雇い」というイメージが残っている。
- 求人広告の誤った表現が拡散
- 「即日現金」「日払い=手軽」など、実態と異なるケースが広まりやすい。
2.2 合法となる日払い方式のパターン
合法となる代表的な方式は以下の3つです。
- 出勤都度払い(その日に計算して支払う)
- 割増賃金や労働時間を正確に記録し、日単位で支払う方式です。ただし管理負担が大きく、ミスが起きやすいのが課題です。
- 給与前払いサービス(外部サービスの立替)
- 従業員が申請した分を外部サービスが立替払いし、給料日に企業が精算する仕組みです。厚労省は「前払い自体は違法ではない」と明示しています。
- 給与デジタル払い(資金移動業者口座への支払い)
- 2023年に制度化された新方式で今後、主流になるかもしれません。
3. 日払いが"違法"または"問題視"されるケース
合法であっても、運用によっては違法となるケースがあります。典型例をまとめます。
3.1 明確にNGとなるケース
- 働いていない分まで支払う(貸付扱い)
- 労働の提供がない支払いは「賃金」ではなく貸付になり、法令違反のリスクが高くなります。
- 割増賃金を未計算のまま支給
- 日払い計算で割増を落とすケースは非常に多く、是正勧告の対象になりやすくなります。
- 勝手に手数料や控除をする
- 従業員の同意なしの控除は違法です。
- 記録を残さない(領収書なし・手書きメモ)
- 日払い×手渡しの場合に最も多い問題で、労基署の調査でまず確認されるポイントです。
3.2 労基署が問題視した典型例
公開事例では、以下が特に多く見られます。
- 求人広告の内容と実態が異なる(職業安定法違反)
- 割増賃金の不足
- 支給額が曖昧で、台帳が不備
- 交通費を賃金に含めるなど、計算根拠が不明確
これらはすべて「日払いだからこそ起きやすいトラブル」です。
3.3 グレーゾーンになりやすい運用
- 交通費込みの日額固定支給
- 研修期間だけ日払いNG
- シフト確定前の「日払い前提採用」
制度としては成立しますが、トラブルにつながりやすいため避けた方が良い運用です。
4. 日払い制度の基礎:3つの方式と合法性の違い
企業が日払いを運用する際、まず理解すべきは「日払いには複数の方式があり、法律上の扱いがそれぞれ異なる」という点です。厚生労働省は、賃金支払いについて次のように定めています。
賃金は、通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うことー労働基準法第24条「賃金支払の5原則」
この"5原則"を守ったうえで、企業は以下3つの方法を組み合わせて日払い制度を構築できます。
4.1 現金手渡し日払い
もっとも歴史が長い日払い方式で、警備業・建設業・イベント系の仕事に多く見られます。
<メリット>
- 働いたその日に現金を受け取れる
- アプリや銀行口座が不要
- 即金を求める人材を採用しやすい
<デメリット(企業リスクが大きい)>
- 現金管理(紛失・盗難)のリスクが高い
- 支給記録が曖昧になりがち
- 残業代・深夜割増・交通費などの計算が不正確になりやすい
- 労基署調査でもっとも問題指摘が多い方式
記録が曖昧になると、労働基準法第37条(割増賃金)、第24条(全額払い)などに抵触する可能性があります。
4.2 給与前払いサービス(外部の立替型サービス)
企業の利用が急増している方式です。仕組みは次の通りです。
- 従業員がアプリで申請
- 外部サービス(例:給与即時払いサービス)が従業員へ前払い
- 給料日に企業が外部サービスへ精算
厚生労働省は「前払い自体は違法ではない」と示しています。
「賃金支払期日前に支払う前払いは、定期賃金支払いを損なわない範囲で可能」
ー賃金支払の原則|厚生労働省
<メリット>
- 企業のキャッシュアウトなし(立替払い)
- 計算が自動化され、記録不備がなくなる
- 労基法違反のリスクを大幅に低減
- 手渡しのような現金事故がない
<デメリット>
- 外部サービス手数料(従業員負担または企業負担)
- 勤怠データの連携が必須
中小企業にとってもっとも法的リスクの少ない方式で、飲食・介護・物流など人手不足の業界で採用が進んでいます。
4.3 給与デジタル払い(資金移動業者口座へ振込)
2023年に施行された新制度で、労働基準法施行規則が改正されました。
"資金移動業者の口座への給与支払い"を認める省令改正(2023年)
ー厚生労働省|資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
PayPay、楽天ペイなどが対象になりつつある新しい賃金の受け取り方法です。
日払いとの組み合わせが非常に強い理由
- 資金移動業者の口座は即時反映が前提
- 24時間受取可能
- 銀行口座を持たない外国人・若年層にも対応
今後は"デジタル日払い"が主流になると予想されます。
5. 日払い運用の「税務」企業が特に誤りやすいポイント
税務処理は、日払い運用の中でも誤解が非常に多い領域です。特に「日雇い」「短期アルバイト」「派遣」「業務委託」の取り扱いが混同されがちです。国税庁の一次情報に基づき、注意点を整理します。
5.1 所得税の基礎:日雇いか?短期雇用か?
国税庁は所得税の源泉徴収について次のように定義しています。
日々雇い入れられる労働者(いわゆる"日雇い")は、日額に基づいて源泉徴収額を計算する
ー国税庁「給与所得の源泉徴収」
一般的に、
- 日雇い…1日限りの契約
- 短期雇用…連続した勤務前提のアルバイト
という違いがあるため、「日払い=日雇い」ではありません。
5.2 源泉徴収の誤解:日額9,300円以下の"非課税"は年によって変動する
日雇い労働者の源泉計算でよく誤解されるのが、「日額9,300円以下は源泉徴収不要」というものです。これは国税庁の"日雇い労働者の税額表"に基づく金額ですが、税額表は毎年更新されるため、固定値ではありません。企業は必ず最新表を参照する必要があります。
5.3 交通費・食事代の扱い
<交通費>
国税庁は「実費相当分は非課税」としています。
「通勤手当については一定の限度額まで非課税」
ー国税庁
ただし、日払い時に"日額込み"にすると、賃金額が曖昧になり、労務上の問題が発生しやすくなります。
<食事代>
一定額までは福利厚生費として扱える場合がありますが、給与課税として扱われるケースもあるため注意が必要です。
5.4 社会保険(厚生年金・健康保険)で特に誤りやすい点
厚生労働省は「31日以上の雇用見込み」が重要としています。
さらに、2022年以降は短時間労働者の加入拡大が進み、週20時間以上で一定要件を満たす場合、社会保険加入が必要になります。
5.5 労災保険:日雇い労働者でも必ず適用
労災保険は雇用形態に関わらず義務です。企業が日払いだからといって加入しなくて良いわけではありません。
6. 求人広告における"違法表記"になりやすいポイント
日払い制度が合法であっても、「求人広告での記載」に問題があると職業安定法違反(虚偽表示)につながる可能性があります。厚生労働省は「求人情報提供ガイドライン」で明確に基準を示しています。
6.1「日払いOK」と記載できるのはどんな場合か
ガイドラインでは次のように求めています。
- 実際に日払いが可能であること
- 手数料の有無を明示
- 計算方法が実態と一致していること
つまり、週払いしかしていないのに「日払いOK」と書くのは違法です。
6.2 表記のズレによるトラブル例
求人広告で問題になった代表例を整理します。
例1:時給1,200円と記載しながら、日払いは1,100円で計算
→ 実質的な賃金不利益変更となり、是正勧告の対象。
例2:交通費支給と記載しながら、日払いに含めて支給
→ 労働条件の不一致。
例3:「日払いOK」と記載したが、実際はアプリ申請が必要で即時ではなかった
→ 事前説明不足により求職者トラブルが発生。
6.3 求人広告に入れるべき3つの要素
求人担当者が守るべきポイントは次の3つです。
- 支給方式(その場で支給/前払いサービス/デジタル払い)
- 手数料の有無(従業員負担か企業負担か)
- 実際の受け取りスピード(即日/翌日/給与日精算)
特に「日払い=即日現金」と誤解されるケースが多いため、制度の説明は丁寧におこなう必要があります。
7. 企業事例:日払い運用で起きたトラブルと解決策
日払い制度は魅力が大きい一方、運用を誤ると労務トラブルが発生します。
ここでは、厚生労働省が公開している是正事例の傾向をもとに、企業で実際に起きたケースを"匿名の一般化"という形式で紹介します。
※実在の企業名や個人名は使用していません。
7.1 記録不足 → 労基署から是正勧告を受けた例
【ケース概要】
ある飲食チェーンでは、繁忙期に日払いでスタッフへ現金を支給していました。しかし、以下のように記録が曖昧でした。
- 支払簿は手書きメモ
- 勤怠は紙の自己申告
- 残業代計算は後日まとめて処理
労基署の調査で以下の点を指摘されました。
- 労働時間の把握が不十分(労働基準法第32条)
- 割増賃金が不足(労働基準法第37条)
- 賃金台帳の記録義務違反(労働基準法第108条)
【教訓】
「記録の不備」から始まるトラブルが最も多い。手渡し日払いを運用する場合は、記録のデジタル化が必須。
7.2 現金の紛失 → 企業が全額補填した例
日払い現金を店舗に保管しているケースでは、紛失・盗難のリスクが常に存在します。
ある企業では、担当者が封筒を誤って廃棄し、30万円分の現金が消失しました。
保管ルールがなかったため、企業が全額補填することになりました。
【教訓】
現金運用は人為ミスを避けられず、管理コストが高い。
日払い=現金、という古い前提を手放すことが重要。
7.3 税務処理の誤り → 年末調整で従業員から苦情
日払い時に源泉徴収をおこなわない運用をしていた企業では、年末調整で従業員が「所得税が高額になり、手取りが減った」と不満を述べるケースが見られました。
【教訓】
「日払いだから源泉徴収しない」は誤り。税務処理は支払時に正しくおこなう必要がある。
7.4 給与前払いサービス導入で改善した例
物流業の企業A社は、それまで現金・手渡し日払いを採用していたため、多くの課題を抱えていました。
- 現金準備
- 支給ミス
- 記録不備
- 求人の応募率の低さ
そこで複数の前払いサービスを比較し、外部サービス型を導入しました。
結果として、以下の改善につながりました。
- 現場の管理時間が1日あたり2時間削減
- 日払い希望者の満足度が向上
- 応募率が従来比1.8倍に上昇
【教訓】
日払いの導入は労務改善だけでなく、採用力向上にも直結する。
8. 現場の負担を減らす「正しい日払い運用フロー」
日払い制度で最も重要なのは、運用フローを形式ではなく"仕組み"として整えることです。ここでは、労基法・ガイドラインに基づき、正しい運用手順を整理します。
8.1 導入前に整えるべきポイント
- 就業規則への明記
- 賃金の支払い方法を変える場合、企業は就業規則に明記する必要があります(労働基準法第89条)。
- 従業員の同意取得
- 賃金控除が発生する場合は、労使協定が必要です(労基法24条但し書き)。
- 勤怠・給与計算との整合性
- 日払いを導入する前に、以下の整備が必須です。
- 打刻漏れ対策
- 休憩時間の管理
- 深夜・残業計算
勤怠管理が曖昧な状態での日払いは、必ずトラブルを招きます。
8.2 正しい日払い運用の流れ
企業が守るべき運用フローは次の通りです。
- 従業員が勤務
- 勤怠の確定(自動または確認)
- 日払い額の算出(割増含む)
- 所得税の源泉徴収
- 支給(現金またはサービス経由)
- 賃金台帳へ記録(保存義務3年)
- 給与日精算(不足や差額を調整)
特に4番の源泉徴収は見落とされがちな重要ポイントです。
8.3 運用が楽になる「日払いチェックリスト」
✔ 法律面
- 労基法24条の5原則に合致しているか
- 残業代を正しく計算できる仕組みがあるか
✔ 税務面
- 支給時に源泉徴収できているか
- 年末調整と整合性が取れているか
✔ 記録面
- 支給額・受領記録が電子化されているか
- 修正履歴を残せるか
✔ 求人面
- 求人表示が実態と一致しているか
- 手数料の有無を書いているか
このチェックリストを満たせば、日払い運用のリスクは大きく減ります。
9. hibarai(ヒバライ)による最新の日払い運用モデル
日払いのニーズが高まる一方で、企業側の負担は依然として大きいままです。
こうした課題を背景に、「現場の運用負担をなくすための給与即時払いサービス」が普及しています。hibarai(ヒバライ)もその1つで、以下のような特徴があります。
9.1 手渡し日払いの課題を構造的に解消
hibaraiのような外部立替型のサービスは、日払いの複雑な工程を自動化する仕組みを持っています。
- 現金準備
- 記録作成
- 勤怠計算
- 税務処理
これにより、「人為ミス」「現金トラブル」「記録不備」のリスクが大幅に減少します。
9.2 勤怠管理との連動で計算ミスを防ぐ
手計算で発生しやすい以下の項目を自動で処理できます。
- 深夜割増
- 休憩時間不足
- 法定外残業の計算
厚生労働省が重視する労働時間の正確な把握(労基法第32条)という観点でも有効です。
10. まとめ:日払い制度は"正しく運用すれば合法"で企業成長の武器になる
日払い制度にはさまざまな誤解がありますが、労働基準法・税法・社会保険のルールを押さえれば、日払いは完全に合法であり、企業にとって強力な採用改善ツールになります。ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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