2026年4月、日本の副業・兼業を長年縛ってきた「労働時間の通算」ルールが、大きな転換期を迎えます。 これまでは、従業員が複数の会社で働く場合、各社が労働時間を合算して管理し、法定時間を超えた分については「後から雇用した企業」が割増賃金を支払うという、極めて煩雑な仕組み(労働基準法第38条)が義務付けられていました。 しかし、多様な働き方の普及と深刻な人手不足を背景に、政府は「簡素通算制」を導入。特定のプラットフォームを介したスポットワーク等については、自社の労働時間と通算しなくてよいという画期的な特例が認められることになりました。 本記事では、この改正が企業経営と現場の労務管理に与える影響を解説します。
💡 この記事でわかること
- なぜ旧来のルールは「限界」だったのか
- 労働基準法第38条第1項の原則
- スポットワーク普及の妨げ
- 改正の核心:「簡素通算制」の全容
- 「簡素事業」の定義と仕組み
- 簡素通算制の適用イメージ
- 企業にとってのチャンスとメリット
- 採用訴求力の劇的向上
- スポットワークによる人手不足解消
- 割増賃金コストの適正化
- 企業が今すぐ取り組むべき対応策
- 就業規則の改定(参考)
- 安全配慮義務の履行(通算不要=放置ではない)
- 認定プラットフォームの選定
- よくある質問(FAQ)
- Q1. 2026年4月から、残業代を払わなくて良くなるのですか?
- Q2. 従業員が勝手に副業をして、本業中に居眠りをするようになりました。
- Q3. プラットフォームを使わない「個人間の副業」も簡素化されますか?
- 企業の対応チェックリスト
- まとめ:2026年は「外部人材活用」の元年
なぜ旧来のルールは「限界」だったのか
新制度を正しく運用するためには、まず現行法の「壁」を正しく理解する必要があります。
労働基準法第38条第1項の原則
「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」 ー厚生労働省
この一文により、以下の3つのリスクが企業に課せられていました。
- 割増賃金支払義務の所在:
- 労働時間の把握困難性:
- 36協定の管理:
本業(A社)で8時間働いた後に副業(B社)で2時間働く場合、B社はたとえ自社では2時間しか雇用していなくても、A社との合算で法定時間を超えるため、最初から25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
ワーカーが他社で何時間働いたかは、自己申告に頼るほかありません。申告漏れや虚偽報告があった場合でも、企業が知らずに法定時間を超えて働かせていれば、労基法違反に問われる法的リスクがありました。
「単月100時間未満」「複数月平均80時間以内」という時間外労働の上限規制も合算で適用されるため、副業ワーカーを受け入れるたびに複雑な計算とモニタリングが必要でした。
スポットワーク普及の妨げ
特に、1日単位や数時間単位で働く「スポットワーク」において、この合算管理コストは人材活用コストを大幅に押し上げ、多くの企業が「副業ワーカーの受け入れ」を断念する一因となっていました。
改正の核心:「簡素通算制」の全容

2026年4月から導入された「簡素通算制」は、複雑な合算管理から企業を解放する制度です。
「簡素事業」の定義と仕組み
改正により、国に認定された「特定プラットフォーム(仲介事業者)」を介して行われる労働は、「簡素事業」として扱われます。
- 特例の内容: 簡素事業に該当する労働については、他の事業場の労働時間と通算しないことが認められます。
- 実務上の変化: 企業は、自社で働かせた時間のみを管理すればよくなり、他社での勤務状況に基づいた割増賃金の計算が不要になります。
簡素通算制の適用イメージ
項目 | 旧ルール(原則) | 簡素通算制(特例) |
対象となる労働 | 直接雇用のすべての副業 | 認定プラットフォーム経由の労働 |
労働時間の把握 | 他社の労働時間を合算する必要あり | 自社の労働時間のみ管理 |
割増賃金の計算 | 合計が8h/日を超えれば割増 | 自社で8hを超えない限り割増不要 |
企業の法的リスク | 他社での長時間労働による連鎖違反 | 自社の管理範囲に限定 |
注意点
全ての副業が通算不要になるわけではありません。 プラットフォームを通さない直接雇用の副業(例:知人の会社を手伝う、自社で直接アルバイト雇用する等)は、引き続き「旧ルール(合算管理)」が適用されます。
企業にとってのチャンスとメリット
この改正は、攻めの人事戦略を展開する上で大きなメリットをもたらします。
採用訴求力の劇的向上
「副業・兼業OK」を掲げやすくなることで、スキルアップを望む優秀な若手層や、特定のスキルを持つ専門人材を惹きつけることができます。管理コストが下がるため、制度として「原則容認」を打ち出す障壁がなくなります。
スポットワークによる人手不足解消
これまで管理の煩雑さから敬遠していた「数時間だけの人材補填」が容易になります。特に繁忙期のシフト埋めや、突発的な欠員対応において、認定プラットフォームを活用することで、労務リスクを最小限に抑えた柔軟な布陣が可能になります。
割増賃金コストの適正化
「他社で働いてきたから」という理由で発生していた不要な割増賃金負担がなくなるため、純粋に自社への貢献度に見合った賃金設定が可能になります。
企業が今すぐ取り組むべき対応策
制度変更に伴い、就業規則や運用フローのアップデートが必要です。
就業規則の改定(参考)
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に準拠し、以下のような規定への変更を推奨します。
第〇条(副業・兼業)
- 労働者は、勤務時間外において、他の事業主の業務に従事し、又は自ら事業を営むことができる。
- 前項の規定に基づき副業・兼業を行おうとする者は、事前に会社が定める様式により届け出なければならない。
- 会社は、前項の届け出があった場合、原則としてこれを承認する。ただし、以下に該当する場合は制限または禁止することがある。
① 労働者の健康確保に支障が生じるおそれがあるとき ② 守秘義務に抵触し、又は自社の機密情報が漏洩するおそれがあるとき ③ 競合他社への就業等、自社の利益を不当に害するとき ④ 自社の名誉若しくは信用を毀損し、又は公序良俗に反するとき
- 副業・兼業に係る労働時間の通算については、労働基準法第38条の規定に従うものとする。ただし、厚生労働大臣が認定した特定のプラットフォームを介した労働(簡素事業)については、法令の定めに従い、自社の労働時間との通算を行わないものとする。
- 労働者は、副業・兼業に従事する場合であっても、会社に対する職務専念義務及び誠実義務を免れるものではなく、本業の遂行に支障をきたしてはならない。
安全配慮義務の履行(通算不要=放置ではない)
労働時間が通算されないからといって、会社が従業員の健康に無関心でよいわけではありません。
- セルフケアの啓発: 従業員に対し、総労働時間が過度にならないよう自己管理を徹底させる研修を実施する。
- 面談の実施: 明らかに疲弊している従業員には、副業の状況をヒアリングし、必要に応じて就業制限をかける運用フローを構築する。
認定プラットフォームの選定
活用するスポットワークサービスが「簡素通算制」の対象(認定事業者)であるかを必ず確認してください。認定されていないサービスを使い続けると、意図せず旧来の通算ルール違反となる恐れがあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2026年4月から、残業代を払わなくて良くなるのですか?
A1. いいえ。自社で法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働かせた場合には、当然25%以上の割増賃金が必要です。あくまで「他社で働いた時間と合算して割増を計算する」必要がなくなるという特例です。
Q2. 従業員が勝手に副業をして、本業中に居眠りをするようになりました。
A2. 改正後も、本業への支障がある場合は副業を制限・禁止することが可能です。就業規則に「職務専念義務に反する場合」の措置を明記しておきましょう。
Q3. プラットフォームを使わない「個人間の副業」も簡素化されますか?
A3. されません。現時点では、労働時間のデジタル管理が担保されている「特定プラットフォーム」経由のみが対象となる見込みです。直接雇用の場合は引き続き合算管理が必要です。
企業の対応チェックリスト
まとめ:2026年は「外部人材活用」の元年
2026年4月の法改正は、企業にとって「攻めの労務」へ転じる転換点です。 「管理が面倒だから副業は禁止」という守りの姿勢を捨て、簡素通算制という武器を使いこなすことで、人手不足を解消し、多様な才能が集まる組織へと進化させることが期待できます。 まずは自社の就業規則の見直しから着手してみてはいかがでしょうか。
免責事項:
本ガイドは2026年4月時点の情報に基づいています。簡素通算制の適用には、認定プラットフォームの利用など一定の条件があります。個別具体的な運用については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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